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各種疾患における鉄の意義の解明

“鉄”は生体内に最も多く存在する微量金属であり、生命活動やその機能維持に必須の元素です。その一方で Fenton/Haber-Weiss反応を介した酸化ストレス産生にも関与するために生体にとっては両刃の剣となります。近年、
ウイルス性肝炎、癌、アルツハイマー病、パーキンソン病などの様々な疾患において鉄蓄積がそれらの病態に関与
して、鉄除去が治療につながることが明らかにされました。すなわち遺伝性鉄蓄積病でない疾患においても、鉄代謝
調節機構の変化に伴う鉄蓄積が病態の増悪因子となるという新たな概念が確立されつつあります。我々はこの“鉄”に着目して研究を行っています。

これまでに、鉄除去によって脂肪肥大の進展を抑制すること(Am J Physiol Endocrinol Metab 2012:図1)、鉄摂取制限は糖尿病性腎症の進展を抑制すること(Am J Physiol Renal Physiol 2013:図2)など肥満・糖尿病とその合併症には生体内鉄量の減少が有効であることを明らかにしました。

図1. 鉄キレート剤による脂肪肥大の進展抑制効果

鉄キレート剤によって脂肪細胞肥大、マクロファージ浸潤、スーパーオキシド産生は抑制される
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鉄キレート剤によってNADPH oxidaseは抑制される
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図2. 食餌性鉄制限による糖尿病性腎症の進展抑制効果

鉄制限食によって
尿中アルブミン排泄量は減少する
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鉄制限食によってメサンギウム増殖、
細胞外基質沈着は抑制される
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鉄制限食によって腎臓の酸化ストレスは抑制される
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この機序として、鉄除去がNADPH oxidase抑制を介して酸化ストレス軽減につながると示唆されました。また、アンジオテンシンIIが鉄輸送体の発現を変化させることで細胞内鉄量を増加しさせ、酸化ストレス生成に関与すること(Hypertens Res 2010)、鉄キレート剤が酸化ストレスと内皮細胞アポトーシス抑制することで虚血後血管新生を促進すること(Atherosclerosis 2011)、腎線維化抑制に鉄除去が有効であること(PLoS ONE 2014)を報告し、動脈硬化や腎不全の病態において鉄が増悪因子として作用することを明らかにしています。また女性ホルモンエストロゲンが鉄制御ホルモンであるヘプシジン発現に関与して消化管鉄吸収を制御することを報告し、性ホルモンと鉄制御における新知見を明らかにしました(PLoS ONE 2012)。

このように、疾患の存在下において鉄は病態増悪因子として作用することが示唆されますが、生体での鉄バランスが重要と考えられるものの、鉄の役割の詳細は不明な点が多いです。
我々は、鉄と病態生理機構の関連を解明することによって、“鉄”を標的とした新規治療法への応用を目指しています。

徳島大学・大学院
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