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腎・心血管障害に対する
新規治療薬ニトロソニフェジピンの開発

我々はニトロソニフェジピン(以下、NO-NIF)という全く新しい作用機序を有する薬物の開発を研究しています。ニフェジピンは高血圧や狭心症の薬として世界で広く使用されていますが、NO-NIFはニフェジピンに光照射を行うことで合成されます。
我々のこれまでに、NO-NIFが細胞膜を構成する不飽和脂肪酸と反応して、強力な酸化ストレス消去活性を示すことを見出しました(参考文献1)。また培養正常ヒト腎糸球体血管内皮細胞を使用した研究において、NO-NIFは酸化ストレスによる細胞障害および細胞生存率低下を抑制することを明らかにしました(参考文献2)。
これらのin vitro研究を基に、疾患モデル動物に対してNO-NIFの効果を研究したところ、高血圧モデル動物、糖尿病性腎症モデル動物の血管障害や腎障害に奏功するという成績が得られました(参考文献3、4、5)。
我々はこれらの結果を踏まえて、NO-NIFの動脈硬化治療剤および糖尿病性腎症治療剤としての有用性に関する2つの特許を取得しています(特許 第5360939号、特許 第5360933号)。現在も様々な疾患モデル動物を使用して、NO-NIFの薬理作用について日々研究しています。

1. 血管リモデリングに対するNO-NIFの効果

図1、参考文献4)

動脈硬化に深く関与するアンジオテンシンII(以下、Ang II)慢性投与により惹起される大動脈周囲の線維化および中膜肥厚は、NO-NIFの投与により抑制されました。またNO-NIFは、Ang II慢性投与による大動脈の活性酸素種(以下、ROS)産生増加および尿中酸化ストレスマーカーである8-OHdG排泄量増加を抑制しました。さらにNO-NIFは血管平滑筋細胞の細胞膜流動性を上昇させることも明らかとなりました。
本研究結果より、NO-NIFはAng IIにより誘発されるマウス血管リモデリングを改善し、新たな動脈硬化予防薬・治療薬となる可能性が示唆さました。

図1. NO-NIFはAng IIによる血管リモデリングおよびICAM-1発現を抑制する
血管中膜肥厚、線維化
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ICAM-1(大動脈)
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(Sakurada et al., Naunyn-Schmiedeberg's Arch. Pharmacol., 386, 29-39, 2013)

2. 糖尿病性腎症に対するNO-NIFの効果

図2、参考文献5)

糖尿病性腎症は透析導入原疾患第1位であり、未だ医療ニーズが満たされていない疾患領域、すなわちアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患のひとつです。糖尿病性腎症モデルマウスであるKKAyマウスにおいて、NO-NIFは尿中タンパク排泄量増加、糸球体の拡大を抑制しました。NO-NIFはKKAyマウスの腎臓内ROSおよび尿中8-OHdG排泄量の増加を抑制しました。加えてNO-NIFはKKAyマウスの腎臓内ICAM-1及びアンジオテンシノーゲン発現の増加を抑制しました。一方KKAyマウスにおいて、NO-NIFはポドサイト障害マーカーであるデスミン発現増加、耐糖能異常及び血圧上昇には影響を示しませんでした。またNO-NIFは、血管内皮障害モデルマウスであるeNOSノックアウトマウスにおける尿中アルブミン排泄量増加を抑制するとともに、大動脈におけるICAM-1発現増加及び腎臓内ROSの増加を抑制しました。
本研究結果より、NO-NIFは血糖降下作用及び降圧作用を介さずに糖尿病性腎症進展を抑制する可能性が示唆されました。その作用機序としてNO-NIFの抗酸化作用を介した血管内皮障害抑制作用が関与すると考えられます。NO-NIFは糖尿病合併症である腎症を未然に防ぐ新たな治療薬となることが期待されます。

図2. NO-NIFは糖尿病性腎症モデルマウスにおける腎障害進展を抑制する
タンパク尿
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糸球体係蹄直径、面積
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ICAM-1(腎臓)
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(Ishizawa et al., PLoS ONE, 9, e86335, 2014)

参考文献

  • 1.

    Horinouchi Y et al. Antioxidant effects of photodegradation product of nifedipine. Chem Pharm Bull. 59, 208-214, 2011.

  • 2.

    Fukuhara Y et al. Protective effect of photodegradation product of nifedipine against tumor necrosis factor alpha-induced oxidative stress in human glomerular endothelial cells. J Med Invest. 58, 118-126, 2011.

  • 3.

    Ishizawa K et al. Drug discovery for overcoming chronic kidney sisease (CKD): Development of drugs on endothelial cell protection for overcoming CKD. J Pharmacol Sci. 109, 14-19, 2009.

  • 4.

    Sakurada T et al. Nitrosonifedipine ameliorates angiotensin II-induced vascular remodeling via antioxidative effects. Naunyn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol. 386, 29-39, 2013.

  • 5.

    Ishizawa K et al. Nitrosonifedipine ameliorates the progression of type 2 diabetic nephropathy by exerting antioxidative effects. PLoS ONE, 9, e86335, 2014.

徳島大学・大学院
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